とあるカイシャの会議風景

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建築工事中の風景、無数の竹で支えている/バングラデシュダッカ(2005)



前回、サービス断捨離の手はじめに、まず社内へのサービス削減をと書いた。
たとえば企業の間接部門に属していると、こういうことがある。


●とある業界大手A社のミーティングルーム

(各セクションの担当がずらっと長テーブルを囲んだ空気の重い室内に部長が急ぎ足で入ってくる)

A部長:ごめんごめん、COOとの話が長引いちゃって。(部長着席)じゃ、はじめようか。B君よろしく
B課長:はい、では定例会議をはじめます。まず先週の報告を××セクションのC君から

(各セクションの週間データを各担当者が読み上げる。数値はデータ集計の係が半日がかりでまとめている。数値を読み上げたあとは今取り組んでいることなどの進捗状況が手短かに報告される。最後の担当が説明を終えると、場を沈黙が覆う。各人、資料に視線をやったり腕組みして何かを考えている風でA部長の発言を待つ。A部長がおもむろに口を開く)

A部長:うーん、Dサイトの××率がちょっとさがってきてるみたいだねぇ
B課長:E君、これどうなってるの?
E:えーと、それは……たしか……(慌ててページをめくる)
A部長:クレームとか上がってきてない?
E:はい、それは今のところは何も……
A部長:じゃあちょっと確認しといて
E:はいっ、すいません
A部長:それと、ほんとに問題ないか現場にもヒアリングしといて
E:わかりました
B課長:じゃE君、確認したら部長にメールで報告してくれる?
E:はい
B課長:いつまでにできそう?
E:今日中には
B課長:わかった。ぼくにもCC入れといてね
E:はい、わかりました

こうした指摘がしばらく続く。それが終わり、A部長があらたまって話し始める。

A部長:ところで、COOからさっき話があったばかりなんだけど、Dサイトを閉鎖することになった

(ざわ…ざわっ…)

A部長:あるところからの情報によると、F社も××のサイトをリストラする方向で通達がはじまったらしい。うちもいろいろと模索してきたが、顧客へのコスト転嫁が厳しい状況で、F社との差がさらに開くことになる。みな理解してくれてると思うが、COOと相談してやはり多少の「整理」もやむを得ないだろう、と

(ざわ…ざわっ……ざわーっ)

A部長:もちろんここにいるメンバーは対象ではないが……

(随所でため息のようなものが漏れる。何人かがさっき配られたデータ資料にメモらしきものをとる)

A部長:時期等は追ってCOOからの発表があると思うけど、みなには内々に知らせておきます。オフレコなので、まだ他言はしないように。なんとか状況を打破できるようぎりぎりまでがんばってきたが、残念だ。これから、さらに危機感をもって業務にあたってほしい。このままではわたしも自分で自分の首を切らなくちゃいけなくなる、アハハ……

(シーン)

A部長:ま、そういうことで、よろしく
B課長:部長、あの、だいたいの閉鎖はいつ頃でしょうか? 
A部長:目安としては、来年の×月頃までにと考えてる
B課長:×月ですかぁ……スケジュール的に、厳しいですねぇ
A部長:厳しいとは思うが、COOからのどうしてもという指示なんで、なんとか頼むよ

EとGが深いため息をつきながら自分のデスクに戻る。

G:あーあ、うちもとうとうリストラかぁ。そんな予感したんだよなぁ

(Eは分厚い会議資料をファイリングし、Gはばさりと机の上の資料の山の上に投げる。)

G:Dサイトの再生計画せっかく作ってきたのに。さんざん時間かけといて、F社の情報聞いたら慌てて方針転換って。そんなのやってるから傾くんだよ
E:……(笑)
G:しっかし、なんだよあの会議。出るだけ時間の無駄だよ。おれもそろそろ次考えよかなぁ。今回は大丈夫でも、正直これからますますヤバイんじゃない?
E:次考えられる余裕あってうらやましいよ。おれなんか次ないよ〜(とDサイトに電話をかけはじめる)



笑い話っぽく軽く書いたけれど、実際、こういうやりとりは珍しくないはず。


・全員で数字を確認し情報を伝達するだけで、検討課題の設定、アクションの提示がない
 (なんで集まる必要がある?)
・分厚い資料に細かいデータが並んでいるが、それが意味する結論・仮説がない
 (誰が分析するの?)
・データが有効に使われている形跡がない
 (現場の手間はどう生かされるの?))
・数値をもとにしたPDCAがまわっていない
 (何を基準によくしていくの?)
・ただ同席しているだけの(ずっと黙っている)メンバーがいる
 (あんた誰?)
・議事録がとられていない
 (……原発事故時の日本政府)


生産現場が0.1秒単位で動作を測定してコスト削減に励んでも、雇用者数の60%をしめる知識労働者・サービス従事者がこうでは全体の生産性があがるはずもなく。

そもそも数値化した部分には厳格になるわりに、それ以外の基本的方針や意思決定でぐだぐだだったりすると、数値の計測なんて意味がない。

さらに、知識労働者は生産性をはかりにくく、業務も実質的には自分でしか管理できないから、定期的に業務を削るつもりで自ら見直さないと、重要でない仕事が増えて大事なことをする余裕もなくなる。


健康管理で贅肉を落とそうとして外側の皮膚から削らないように、顧客サービスの肥大化はまず自分の身の回りの業務プロセス(社内サービス)の断捨離から。大事なことはそんなに多くないハズ。





船のなかでの商売/バングラデシュ、クルナ(2005)



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