PC故障顛末

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ある夜、ノートPCが発火した。ように見えた。煙が上がっている。アラジンと魔法のランプの煙みたいに。しかしそれはランプではなく電源アダプタの差込口からで、魔神の姿も現れない。

あわててすぐにアダプタを引っこ抜き、異臭まじりの空気のなか深呼吸して、どうすべきかしばし考えた。
分解して内部を確認すると、液晶パネルをつなぐヒンジ部の液晶ケーブルとプラカバーが焦げている。おそらく開閉によってケーブルが劣化し、ショートして焼けたのだろう。しかし試しにバッテリで起動してみると、問題などなかったかのようにこれまで通りに立ち上がった。

ほっとしたものの、その起動がいけなかったのかもしれない。



焼けたケーブル


液晶ケーブルを交換する必要があったが、ヤフオクで中古ケーブルを手に入れて交換して再起動したところ、画面がうっすらとしか映らない。ショートしたまま再起動したのが悪かったか…。外部モニタをつないで切り替えてみると大丈夫だったので、問題箇所は次のどれかだろうと見当をつけた。

1.液晶ケーブル
2.液晶インバーター基盤
3.冷陰極管
4.マザーボード

しかし、中古とはいえ手に入れた液晶ケーブルはまだ状態もよく断線もなさそうだ。そこで新品のインバーター基盤を手に入れつけかえてみたが、解決せず。で、別の状態のよい液晶を見つけ、つないでみたが、これでも解決せず。原因はマザーボードらしい。しかも、いろいろいじくっているうち、マザボの別の部分を破損させてしまった。キーボードケーブルをつけはずししていたら、差込口で固定させるプラスチック片がポロリ。細い部品を折ってしまったのだった。ま、不具合はマザボの別の部分にもあるんだしいいやと、外付けキーボードで操作。ノートの液晶と外部モニタとの切り替えを付属キーボードのコマンドで行うのは、一瞬手でケーブルを固定したら可能だった。



キーボードと液晶の裏側


さて、どうしよう。マザボを手に入れて修理するか。ジャンク品を買ってリストアにはまる人の気持ちがわかる。しかしそれには時間がかなりかかる。その手間を省いて新しいのを買うか。

調べてみたら、ノート型も相当安くなっていて驚くばかりだ。つい先ごろ家族に買ったデスクトップノートはクアッドコアで3万円台だったし、モバイルノートもスペックにこだわらなければ2万台だ。今の低スペックといっても、故障したレッツノートとは比較にならないほど立派だ。レッツノートは当時20万円以上したけれど、その十分の一。コモディティ化を実感する。

ヨドバシに実機を見に行ったところ、えらいことになっている。国内メーカーのノートPCの配色やデザインはグロテスクというか、何かやばい気配が感じられた。差別化が変な方向に行っているようだ。デルのブースも、ゲーム用に特化しているのか恐竜みたいな風体のデスクトップPCが並んでいて、凋落前の家電メーカーのステレオコンポが一時期ムキムキデザインだったのを思い起こさせた。ダイレクトモデルという往時の強みを失い、値段でもエイサーやレノボにかなわないんだろうな。今でも「デルの革命」はビジネスプロセスを勉強する名著だと思うけれど。

結局、今のレッツノートを修理してみることにした。
たぶん費やす手間や時間を考えたら買った方が安いのだろうし(こうやってつらつら考えているうちにも時間はすぎていく)、安くなったものに乗り換え使い捨てていくという考え方もありだろう。
でも、やっぱりこのレッツノートには愛着がある。

これでいろんな場所を一緒に巡ってきた(ほとんどデジカメのストレージと化していたけど)。モンゴルの馬の上や南米の深夜バスでのロデオ状態でも持ちこたえ、マチュピチュにも一緒にのぼった。東欧のカフェで画面を開いていたら、当時は海外メーカーには真似のできなかった小ささにまわりの人々は驚愕していた。

スペック的にこれで十分というのもある。何より、ぼくのニーズにちょうどいいというのが、安いモバイルPCをさわってよくわかった。重さと画面サイズのバランスがよく、ファンもないので静音だ。

そんなこんなでマザボを探しはじめたところ、ちょっと足した値段で運良く丸ごと本体が買えた。安かったので状態には期待していなかったけれど、届いてびっくり。筐体に擦り傷はあるが、液晶とキーボードの状態がよく、バッテリーもまだ充分使える。企業向けの機種だった。出品者がOSはないと書いていたけど、予想通りHDDにDtoD領域が残っていて、BIOSからXPをインストールできた。しかしSP3にアップデートする段階でいろいろと問題点が出てきた。



マザボ


まずネットワークアダプタが認識されるときとされないときがある。古いLANカードを試みたが、PCカードアダプタも認識されない。SDカードも認識されず。HDDの使用時間は5000時間ほどとまだ短いので、故障品だったのか意図的にこうしたのか。

さらに、ネットワークアダプタが認識されるとたびたびブルースクリーン。これは、OSの起動中にブルースクリーンが出てひたすら再起動を繰り返す症状で、以前のレッツノートに見られた問題だ。当時は原因がわからず、ずいぶん時間と労力を無駄にした。同じくレッツノートを買った人のなかには、よくわからずに自分だけの故障だと思って使用をあきらめた人も大勢いるだろう。

いや、思い出した。ぼくもいろいろと試みたあげく、仕方なくOSを再インストールしたのだ。そのときに、バックアップしていなかった家族の写真やらの一部を失ってしまった。PCの故障よりこっちの方がよほどショックだった。バックアップは重要だ。BIOS無線LANを切ったら症状があらわれないとなんとかつきとめて使っていたけれど、無線LANのドライバが原因の固有の症状だったらしいとあとで知った。当時のレッツノートの値段からしたら、リコールしてパナソニックが責任をもって修理すべき症状だったと思う。強制再起動ばかりではHDDの寿命を縮めてしまう。時間を経ずしてHDDが故障して換装をパナに依頼して6万近くかかったけど、マッチポンプじゃないかとさえ……まあいいや。でも金はともかく、失われた時間とデータは二度と戻らない。


ブルースクリーン問題は新しいドライバをいくつかインストールして修復。今の時点ではネットにはつなぐ必要はないので、故障箇所は修復できなくてもいい。幸運なことに、USBが生きていた。

前のレッツノートはまた安いマザボを見つけて載せ替える予定。当初はXPのサポートが切れるまであと1年ちょっと使えればいいやと思っていたけれど、勢い余って、IDEコネクタのSSDを買って換装してやろうかという気にさえなっている。

発煙からここ2カ月ほど、ブログも書かず、修理に時間もかかったけど、久しぶりに工作気分を味わえた。20年ほど前にはじめてMacを手に入れあれやこれやといじっていたときのことをふと思い出した。たとえば起動時間を数秒早くするために、機能拡張ファイルを入れ替えたりという作業に(アホみたいだが)一日費やしたりしていた。つまりはっきり言って時代のテクノロジーの進歩の方がはやく、あとから振り返ると、かけた時間ほどアウトプットにはつながらなかった気もするけれど、自分の道具を自分で調整しているという実感はなかなかのものだ。MacからWinに乗り換えて以降、ツールへのこだわりは捨てたつもりだったけれど、その楽しさを久々に思い出した。

PCがコモディティ化した時代だからこそ、壊れて上等という気楽な気分でいろいろと試みられるし、愛着も生まれてくる。平凡な道具でも、ときに魔法のランプのような気分を抱かせてくれることもあるかもしれない。願わくは、それが故障の煙によってではないことを。


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